明日の子供たち 有川浩 感想
何気にニュースで少子化問題を目にする日々の多くなりつつある中、つい気になってしまった。
本来ならば、山や森や川や海などに恵まれているゆえ、子どもたちが伸び伸び育つはずの地方は、今後いわゆる"限界集落"の度合いを上回って、なくなってしまうのか? といった思いから、つい購入。
前年2014(平成26)年8月8日金曜日の発売だったと悔やんでも、後の祭りか...。
といった思いで、目を通すことになったのは、有川浩原作の『明日の子供たち』(幻冬舎)...。
物語は、児童養護施設で働く職員と入所している子どもを主軸に描かれた群像劇...。
この感触は一体何なんだろう?
やはり、あの前年2014(平成26)年1月より3ヶ月間放送された、児童養護施設が舞台の連続ドラマに関する釈然としない思いが大きく、未だ尾を引いていたのかもしれない。
結局のところ、世に出されたとしても、社会の偏見はなくならないし、劇的に状況が変わることも難しいのは、重々承知のこと。
それでも、確実な下調べも当事者との協調もないセンセーショナルな脚本を前面に出した連続ドラマよりは、はるかにマシかもしれないや。
もし、事前に当事者からの思いを直に受け止めた上の放送ならば、多少の反発や軋轢やわだかまりがあったとしても、静かに未来を見据えてメッセージを発しつつ堂々といられたはずなのに...。
ということもあって、この度の本では、有川浩の真骨頂とする相変わらず少しずつ引き込まれるかのような物語の展開が...。
すなわち、実際に入所した児童から届いた手紙がきっかけで書かれただけに、綺麗事だけでは終わってないことに、静かに納得させられるものだった。
かの物語の主人公は、児童養護施設に転職した、やる気は人一倍の新任職員・三田村慎平。
着任初日から理想を心の片隅に秘めて仕事するものの、先輩職員からキツい指導を受けてしまう破目になってしまい...。
慎平の周囲には、愛想はないが涙もろい3年目・和泉和恵、理論派の熱血ベテラン・猪俣吉行、といった先輩職員たちが...。そして、聞き分けのよい16歳の"問題のない子ども"・谷村奏子、大人より大人びている17歳の平田久志、といった子どもたちが...。
全体を通して、児童養護施設で暮らす少年少女はもちろん、彼らの世話や指導をする職員たちの想いや葛藤、現実の厳しさや強く優しく生きていこうとする姿が、ありのままに描かれていて...。
何よりも、退所後の先を見据えた支援の方向も示してあることから、「知らない」人たちには、児童養護施設の実情を理解するきっかけになるだろうと実感。
しかしながら、現実問題として、この本に反発する人や団体も存在しないとまでは断言できないもので...。
知能障害ゆえに親から育児放棄されて入所している子どもが意外と多い現実ともなれば、つい目を背けてしまいたくなる気持ちも、決してわからないわけでもない。
それゆえに、あらゆる人たちがいて社会が成り立っていることを、改めて認識。児童養護施設の子どもたちの行く末に、理解のある人たちが少しずつ増えて、幸せを少しずつ浸透してゆく世の中になること、祈りたいな。
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